ブログ

「塩」の脱水効果が料理を救っている話

木澤陸斗

こんにちは。暑くなってくると、なんだかしょっぱいものが食べたくなりますよね。たくさん汗をかくので、ミネラルが不足しているのかもしれません。 そんなことを考えながら塩を使う料理を思い浮かべていたところ、「逆に塩を使わない料理ってあるのかな?」という疑問が湧いてきました。 でも、塩を使う料理って、すべてがしょっぱいわけではないんですよね。お砂糖の場合は、入れたら多少は甘くなることを期待しますが、塩はそうじゃない。不思議です。 理系大学院生として、不思議は解決せずにはいられません。改めて塩の役割を調べてみると、「塩の脱水効果」こそが、料理において圧倒的に重要なのではないかという結論に至ったので、ここで共有させていただきます。

※本記事は私の思いつきと好奇心でまとめたものです。内容の正確性は保証できませんのでご了承ください!

そもそも塩の役割

私が愛用している『おいしく食べる食材の手帖』(池田書店・野崎洋光著)によると、塩味をつける以外にも、塩には以下のような多様な役割があるそうです:

  1. 水分を除く:余計な水分が抜けることで、調味料の味が入りやすく、馴染みやすくなる
  2. うまみを引き出す:水分が抜けて味が凝縮され、旨味が引き出される
  3. 保存性を高める:菌の繁殖が抑えられ、保存性が高まる
  4. たんぱく質を固まりやすくする:魚などではタンパク質の凝固を促し、身崩れしにくくなる。ポーチドエッグに塩を加えるのも同じで、早く固まって形が整いやすくなる
  5. 粘りや弾力が出る:うどんやすり身などに塩を加えて寝かせると、生地の粘性が増し、うどんはコシが強く、すり身は弾力が出る
  6. ぬめりを取る:魚介の表面のぬめりが塩と結びついて固まり、取り除きやすくなる
  7. 色を鮮やかにする:枝豆を茹でるときや、きゅうりの板ずりなどで、塩が緑色を保ってくれる
  8. 変色を防ぐ:りんごの変色を防ぐために塩水に浸けるのは有名ですね

こうして見ると、「塩による脱水作用」が多くの項目に関わっているように思えてきませんか? そこで今回は、「脱水」という観点から塩の働きを整理し直してみます。


塩の脱水原理

今回、脱水という言葉でまとめているのは、主に以下の2つの現象です:

  • 浸透圧による内部からの脱水作用
  • 水との結合性による表面からの脱水作用

前者は、なめくじに塩をかけると水が出てくる現象が有名ですね。後者は、塩が周囲の水分を吸収するような働きです。この2つを意識的に区別しながら話を進めていきます。


浸透圧による、一番わかりやすいやつ

浸透圧の作用は、なめくじに塩をかける例が最もわかりやすいです。塩をかけると外部の塩分濃度が非常に高くなり、これに対して内部から水分が移動し、体の中の水が外に出ていくのです。

この原理に基づいているのが:

  • ①水分を除く
  • ②うまみを引き出す

の2つです。水分が抜けることで、味が染み込みやすくなる、味が濃縮されて旨味が引き出される――というのはまさにこの作用の恩恵ですね。


水分は菌の味方

そして忘れてはならないのが:

  • ③保存性を高める

こちらも脱水効果によるものです。塩漬けにすることで食品の保存期間を延ばす方法は、古くから活用されてきた知恵の結晶です。漬物、梅干し、塩蔵魚など、どれも塩で水分をコントロールすることで保存性を高めています。

ここで重要になるのが、水分活性(Water Activity)という考え方です。微生物は食品中の水分を使って繁殖しますが、「自由水」と呼ばれる水分しか利用できません。塩や砂糖などを多く含ませることで、水分を結合水に変え、微生物が使えないようにするのです。

ちなみに、砂糖による保存の代表例はジャムですね。ジャム大好き!


表面の水分を取るという意味での「脱水」

ここまでは「内部からの脱水」について話してきましたが、もう一つ大切なのが表面の水分を吸収するタイプの脱水です。

これは塩の水分との高い親和性に由来します。例えば魚の表面に塩をふると、表面にある水分やぬめり成分が塩と結びついて固まり、除去しやすくなります。つまり:

  • ⑥ぬめりを取る

という作用につながります。

野菜でもよく使いますよね。きゅうりの板ずりや、ナスの塩もみなど。これらも塩が表面の余分な水分を引き出すことで、えぐみの除去・味のなじみ・食感の改善につながっています。


食感が変わるのも、実は水の抜け具合の話

一見脱水とは関係なさそうですが、実は深く関係しているのが:

  • ⑤粘りや弾力が出る

です。うどんやすり身などに塩を加えると、タンパク質の電荷バランスが変化し、タンパク質が再配置されやすくなります。これは「イオン強度の変化」によって起こる現象です。

その結果、余分な水が整理されてタンパク質がしっかりと結合し、粘りや弾力のある食感が生まれるのです。これもまた、「水分の再配置」という意味で、広義の脱水効果と言えるでしょう。


結局、塩は水をコントロールしている

ここまで見てくると、塩の本質的な役割は「味付け」よりもむしろ、水分のコントロールにあるのではないかと思えてきます。

  • 浸透圧で中から水を引き出す(脱水)
  • 表面の水分を吸着する(吸湿)
  • 微生物やタンパク質の活動に影響する水の状態を変える(水分活性の低下、ゲル化の促進)

……縁の下の力持ちですね。

とりあえず何にでも塩を入れておけばいいということがわかりました(違う)。

それでは、お塩をもっと信じて、今日も美味しく料理していきましょう!